Column
森まゆみさんの『一葉の四季』という本があります。
岩波新書から出ている本で、樋口一葉の日記や作品に登場する、一葉の生涯、東京の町、そして当時の風俗が丁寧に描かれています。
この本を読んでいて、改めて感じたことがあります。
作家について書かれた本や、その人の日記には、地域の昔の姿を知るための手がかりが、思いがけないほど多く残されているということです。
たとえば、「日暮らしの里」という項には、根岸にあった御行の松のことが紹介されています。
御行の松という名前は、昔、上野寛永寺の御門主がこの樹の下で行法をしたことに由来するとされています。樹齢は不詳ながら、昭和3年に枯死したこと、また明治のころには、その周辺に青々とした田圃が広がっていたことなども記されています。
私は以前、この御行の松の周辺について調べたことがありました。
そのときにこの本に行き当たっていたら、もっと多くの手がかりを得られたのではないかと思います。
また、「夏祭り」という項には、明治中ごろまでは東京でも大きな人形を載せた山車が出ていたものの、明治の終わりごろになると、市中に電線が引かれたこともあり、山車は東京から姿を消していった、という趣旨のことが書かれています。
私はこれまで、江戸時代以来、江戸・東京の祭りは神輿が中心だったのだろうと、漠然と考えていました。
しかし、どうやらそれだけではなかったのかもしれません。
町の景観が変わる。
電線が張りめぐらされる。
道路や建物のあり方が変わっていく。
そうしたインフラや都市の変化が、祭りの姿そのものを変えていった可能性が見えてきます。
このような記述に触れると、作家の日記や回想、文学作品の周辺にある資料は、単にその作家を知るためだけのものではないのだと気づかされます。
そこには、当時の町の音、道の様子、商い、祭り、人の行き来など、地域の暮らしを知るための小さな記録が残されています。
森まゆみさんには、森鴎外に関する著作や『大正美人伝』などもあるようです。
これらについても、折を見て目を通してみたいと思っています。
家族史や地域の歴史を調べるとき、役所の記録や郷土史の本だけが手がかりになるわけではありません。
その土地にゆかりのある作家、文化人、商人、教師、医師などの日記や回想の中に、思いがけない地域の姿が残されていることがあります。
図書館の郷土史コーナーには、その土地に関係する人物の記録や、地域資料が置かれていることもあります。
地域の歴史や昔の暮らしに関心のある方は、ぜひ一度、そうした棚をのぞいてみることをおすすめします。
思いがけないところに、自分の家族の歴史や、住んでいる町の記憶につながる糸口が眠っているかもしれません。
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