Column
今の町の音と比べてみると、暮らし方の違いが見えてくるように思います。
現代の町では、表通りに出ると、まず交通の音が耳に入ります。
車のエンジン音、クラクション、信号機の音。駅の近くでは、案内放送や発車メロディ、大型ビジョンの音なども重なります。
電車の音も、思いのほか遠くまで届きます。
夜遅く、線路から離れた場所にいても、かすかに電車の響きが聞こえることがあります。遠くの電車の音には、少し風情を感じることもありますが、駅前の放送や機械音は、時に耳障りに感じることもあります。
では、江戸時代から明治時代にかけての町はどうだったのでしょうか。
当時は、今のような機械的な音はずっと少なかったはずです。
車のエンジン音も、スピーカーから流れる音楽もありません。聞こえていたのは、荷車や手押し車の音、駕籠の音、人の足音、職人の仕事の音、時の鐘の音などだったのでしょう。
どこかで普請が行われていれば、木を打つ音や人の掛け声も聞こえたかもしれません。
表通りは、今よりも静かだったと考えられます。
一方で、裏路地や長屋の暮らしは、決して無音ではなかったはずです。
長屋では、壁一枚を隔てて隣の家がありました。
赤ん坊の泣き声、夫婦げんかの声、食事の支度をする音、訪ねてくる人の声などは、今の住宅よりも外に漏れやすかったと思われます。
また、長屋の前の井戸端は、水を使う場所であると同時に、作業の場であり、情報交換の場でもありました。
洗い物をする音や話し声、子どもの声など、寝静まるまでは人の暮らしの音が続いていたのではないでしょうか。
そこへ加わるのが、物売りの声です。
魚屋、豆腐屋、金魚売り、風鈴売り、羅宇屋、刃物を研ぐ職人など、さまざまな商いの声が町を通っていきました。
物売りの声は、よく通る声だったのでしょう。
ただし、それは現代のように電気的に増幅された音ではありません。あくまで人の声として、町の中に響いていた音でした。
現代の住宅街に入ってくる音は、選挙カーや移動販売車など、スピーカーを通じて大きくされた音であることが少なくありません。
昔の音は、今よりも近く、今よりも小さく、しかし暮らしの中に深く入り込んでいたのかもしれません。
江戸から明治にかけての町は、今より静かだったのでしょうか。
それとも、人の暮らしの音は、今よりも身近に聞こえていたのでしょうか。
おそらく、機械の音は少なく、人の音は近かった。
そのように考えると、町の音をたどることは、昔の暮らしの距離感をたどることでもあるように思います。
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